TOMORROW X TOGETHER 『THE DREAM CHAPTER:MAGIC』について語りたい《1》

2019年10月21日にリリースされた
TOMORROW X TOGETHER『THE DREAM CHAPTER:MAGIC』。
このアルバムの感想を書き残しておきたくて、それだけのためにこのブログを開設しました。
TXT*1は2019年3月4日、5曲収録ミニアルバム『THE DREAM CHAPTER:STAR』でデビューした5人組ボーイズグループで、このデビューミニアルバムの次に発売されたのが8曲収録の1stフルアルバム『THE DREAM CHAPTER:MAGIC』になります。
2020年1月15日にはシングル『MAGIC HOUR』で日本デビューをしたことでメディア露出も増え、あのテレビや雑誌に出ていたお顔が可愛いのに背が高くてやたらスタイルのいい男の子たちは誰?てかグループ名長くない?トゥモローなんとか?へぇ、どんな曲歌ってるのかしら??…なんて気になった方もおられるかもしれません。そんな方にも彼らの楽曲の良さが届いたら嬉しいなーという身の程知らずな願いを込めつつw 基本的には【あくまで個人的なアルバムの感想】をたらたらと綴っていきたいと思います。

 * ・ * ・ * ・ * ・ *

デビューミニアルバム『THE DREAM CHAPTER:STAR』は少年性を全面に打ち出した明るく元気で爽やかな雰囲気の作品でした。
衣装やヘアメイクなどもメンバーの実年齢 *2 より若干低め設定にしてあったように思います。
以前プロデューサーであるパン シヒョク氏*3 がTXTについて「新人は成長段階を見せることも魅力であるけれど、TXTは最初から高いレベルでスタートしたので成長度を見せていくのが難しい」というようなことを話していました*4。(超絶ざっくり意訳)
だから、戦略として最初は【パフォーマンススキル以外の部分をあえて幼めに印象付けようとした】んじゃないかな。
つまりデビューミニアルバムで少年ぽさを強くアピールした分、初めてのカムバとなったこのフルアルバム『THE DREAM CHAPTER:MAGIC』では前作から約7ヶ月というスパン&彼らの実年齢に似合う等身大な作品であるにも関わらず、イメージ的に大きな変化をわかりやすく感じさせることに成功したのではないかと思うのです。
もちろんそこに彼ら自身の実際の成長があったことは言わずもがなですが。



M-1 『New Rules』

っていう前置きからの1曲目。
しょっぱなから彼らは“明るく元気な少年”的なイメージを壊しにかかります。
イントロからベースがうなり、ヨンジュンとヒュニンカイが交互に囁くRAPで始まるこの曲は、学校、大人、自分を取り巻く全てのものから自由を抑え付けられているような苛立ちで何もかもに反抗したくなってしまう思春期の心の叫びを歌っています。

“決められた毎日にはうんざり”
“やるなって言われたらやりたくなる”
“もっと刺激的なものがほしい”
“その常識は誰が決めたの?”
“僕を縛る見えない鎖を壊して新しいルールを作るんだ”

待って、あんなに純粋そうだった男の子たちが?てかそんな声、そんな歌い方、お母さんは知りませんよ?!
急き立てるようなビートとファンキーなベースが印象的なトラックに、今まで私たちが聞いたことがなかった、見たことがなかった、5人の新しい表情。
いきなりイメージチェンジが過ぎるよTXTちゃん!
でもそのギャップへの驚きも相まって、強い意志を投げつけてくるような5人の歌声にあっという間に心を奪われてしまうわけです。
開始11秒の効果音はきっと、私たちの脳裏に残っていた【ブルーオレンジエードを爽やかに飲み干す屈託ない少年】の姿から【子供と大人の狭間に立ってちょっと不貞腐れた顔でコーヒーを啜るティーンエイジャー】の姿に切り替えるスイッチ。
新しいTXTに出会える期待が一気に膨らむ幕開けでした。
あと、この曲を音楽番組で披露する時、80'sロンドンキッズみたいなちょっとパンキッシュな衣装を着ていたのが歌っている内容に本当にピッタリで、そういう細部にも意味を持たせるトータライズされた楽曲表現がブラボー!
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M-2 『9 and Three Quarters (Run Away)』

タイトルの和訳は「9と4分の3番線で君を待つ」
私、未履修なので詳しいことはよくわからないのですが、ハリーポッターの中で魔法の世界?の入口が【9と3/4番線】という場所らしくそれを引用しているようです。
“僕以外みんな幸せに見える 泣くより笑う方がもっとつらい” という歌い出しで始まるこの曲は、とにかく現実世界が苦しい僕(もしくは君)と、ここから2人で魔法の世界に逃げ出そうと手を差し伸べる君(もしくは僕)の物語。
“ビビディバビディ” “魔法陣” “召喚の呪文” などの言葉が並び、魔法を連想させる怪しげできらめきを帯びた音たちが散りばめられているので、一聴するとファンタジックな印象を受けますが、実は今いる環境の中に自分の居場所を見つけることができずにいる若者の心の痛みが含まれた内容になっており、それを彼らの歌声がヒリヒリするくらい強く訴えかけてきます。
中でも前作では5人の中で特にはつらつとしたピュアな歌声を聞かせていたヒュニンカイが、こんなにもリアルに苦しさや痛みを歌いきっていることに驚かされました。この曲に限らずなのですが、今作ではとにかくヒュニンカイのヴォーカルの成長度が凄い!透明感と柔らかさを併せ持ち、まるですりガラスを通した光のような歌声が、時に突然反転し色濃い影に変化したりしながら歌詞に寄り添って、言葉にもメロディーにもドラマを纏わせてゆく。この人の色んな表現をもっと聞いてみたい、とあらためて思いました。
80年代の香りがするロックサウンドをベースに魔法の世界へと誘うようなミステリアスな音色を加えこれまでのTXTにはなかったハードかつ独特な世界を構築、その中で響くシリアスで切実な5人の歌声が胸に迫る1曲です。

MVは謎めいたストーリー仕立てになっており、散りばめられた伏線を見つけ出しながらそこに隠された設定を探る楽しみもあって、これぞビッヒ*5 の真骨頂といった仕上がり。
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また、パフォーマンスは歌詞をなぞるようなムーブやフォーメーションを取り入れ、この曲の内容が視覚でも伝わるような構成で披露されていました。
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MVもパフォーマンスも楽曲の魅力を増幅させていると思うので、是非両方チェックしてみてほしいと思います。

ちなみにこの『Run Away』は今作のタイトル曲なのですが、前作のタイトル曲『CROWN』とは全く異なる雰囲気でありながら、よく聞くと根底にあるテーマは同じということに気づきます。『CROWN』は、ある日【頭からツノが生えた少年】が “世界中で僕だけがおかしいみたい” という疎外感や居心地の悪さを抱えていたところに【翼を持つ少年】が現れて彼に手を差し伸べ、異なる姿だけどマイノリティとしての同じ痛みを持った2人が出会ったことで互いを救っていく、という歌でした。童話の世界に出てくるような【ツノ】や【翼】というアイテムはつまり【マジョリティの中で生きづらさを抱えているマイノリティ】を示す巧みな比喩表現であり、僕以外みんな幸せに見えると歌う『Run Away』と地続きであるということがわかります。
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“言って、君の半分を完成させるのは僕だろ?僕の名前が呼ばれた瞬間”(CROWN)
“僕の永遠になって 僕の名前を呼んで”(Run Away)

“君の存在が魔法のように僕の世界を変える”(CROWN)
“君を見た瞬間 魔法は始まった”(Run Away)

“やっと完璧になった 僕たち2人だから”(CROWN)
“君と僕が一緒なら空の上も走れる”(Run Away)

このようにこの2曲は呼応する部分が多いことからも、やはりビッヒは作品ひとつずつを単発で考えるのではなくひとつのメッセージを発信するための長期的なストーリーをTXTの楽曲(更にはTXTというグループ自体のテーマ)の根底にずっと描いていくのではないかと予想されます。
それは前述のMV然り。
もちろん1曲ずつ単体としても完成度が高いので、TXTは多角的な楽しみ方ができるグループだということが言えるでしょう。
ズームで見ても、引きで見ても、正面からでも横からでも、どこから見ても魅力満載。
天才じゃん。



M-3 Roller Coaster

曲始まって0.1秒でひゃーーー!言うた…なにこの NJS*6全開のシンセドラム!!!
全世界的にこのへんの音がリバイバルしてきたのは昨年あたりからでしょうか。Kpop界隈でもNJSを取り入れた曲を結構聞きました。
TXTも前作収録『Blue Orangeade』*7が あの頃のバブルガムソウル*8 みたいだったし、やはり時代は繰り返すものなのですね…90’s R&Bドストライクマン感涙…!
【初めて経験する恋】と【ジェットコースターに乗った時の感覚】を重ねているこの曲、怖さとワクワクが紙一重でドキドキソワソワ落ち着かない感じを “心臓が体の中をさまよってる くすぐったい” という歌詞で表現しているのが本当に鮮やかだし、それがキラキラした音像とハネたトラックにもすごく合ってる。
低めに囁くようなパートからファルセットまで高低差を行き来するヴォーカル、まさにジェットコースターのように起伏ある展開、更に彼らは初恋をまだリアルタイムで歌えるくらいのお年頃。
不慣れな恋心の描き方として何もかもが絶妙。巧い。

ところでこの曲の制作陣クレジットにはメンバーのヒュニンカイも名を連ねています。
ピアノを演奏をすることがストレス解消だというヒュニンカイ*9、彼自身いつかTXTの楽曲を作ってみたいという夢を言葉にしていることもあり今後の動向に期待が高まるところです。
TXTは彼だけでなく他のメンバーも楽器ができるので、いつか5人がそれぞれが制作した曲を聞ける日が来るかも…楽しみすぎる…!!!



M-4 『Poppin’ Star』

開始3曲マイナー系の曲調が続いていたところで投下された突然のキュート。
スローモーションで跳ねるラメ入りスーパーボールみたいなどこか非現実的でエレクトリックな音たちがステレオの左右を飛び交う中、5人の歌もここまでのシリアスさを消してとても可愛らしく歌われています。前3曲との落差からそれはとても意図的であることが浮き彫りになり、彼らの表現力の幅広さを思い知らされることとなりました。
この、楽曲に合わせて歌い方・声の色などをガラリと変えるヴォーカルコントロールのスキル、前作は収録曲5曲の間に曲調や内容の激しい変化がなかったためさほど露わにならなかったように思いますが、今作では全8曲がバラエティーに富んでいるのでその分彼らの歌声に様々な表情をくっきりと見ることができます。それにより1曲ごとの世界に引き込む力の強さが増し、聞く側の感情が大きく振り回される。こういう音楽体験、本当に楽しいですよね。
更に各メンバーの個性もより発揮され、ヴォーカルチェンジの面白さも感じられます。特にこの『Poppin’ Star』は5人それぞれがとてもカラフルでグリッターな歌声を聞かせているので、パートが変わるたび万華鏡を回転させたように可愛さが乱反射して何度聞いても新鮮さが失われないのです。

このドリーミィな音像とラブリーなメロディー&アレンジの中で歌われているのは、いつも刺激を求めてしまうティーンならではの幼い危うさ。

“噛むと感じる花火” 
“舌先に乾電池” 
“レモンライムオレンジをたくさん噛んで”
“昨日やったことはもうつまらない”
“これじゃ足りない もっと強いのが欲しい”
“ジェットコースターが落ちる1秒前の感覚を知ってるでしょ?”
という部分は3曲目の『Roller Coaster』にも通じます。
“たまにはちょっと危険でもいいよ お母さんには内緒で鍵をあけてみて”

仲間同士で満たす好奇心なのか、ときめきが先走る恋の歌なのか、どちらにしても、未知だらけの世界の中で心が弾けそうな若者の【キラキラした未熟】をフレッシュさと無機質さの両刀使いで愛しく描いているミディアムポップチューンです。

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ここまででアルバム収録曲半分…長い!www
長くなってしまったので、後半は別のエントリーに分けたいと思います。

*1:TOMORROW X TOGETHERの省略表記。正式名称【トゥモロー バイ トゥゲザー】、略した時のTXTは【ティー バイ ティー】もしくは【ティー エックス ティー】と読みます。

*2:デビュー日2019年3月4日時のメンバーの年齢は、ヨンジュン満19歳、スビン満18歳、ボムギュ満17歳、テヒョン満17歳、ヒュニンカイ満16歳。

*3:TXTの産みの親。BTSを世界的アーティストに育て上げた人。オタク気質。

*4:こちらの動画の中で話しております。 www.youtube.com

*5:TXTが所属する事務所【Big Hit Entertainment】の通称。作品の裏ストーリーを割と不幸設定にしがち。伏線回収業者。深夜0時に新情報が投下されることが多いため、カムバの気配を感じると毎日この時間まで眠れずソワソワし出すことを【ビッヒ病】と呼んでいる。

*6:New Jack Swing。80年代後半~90年代前半に全世界を席巻したBlack Musicのスタイル。プロデューサーTeddy Rileyが確立したハネたビートが特徴のサウンドで、彼自身もメンバーであるグループ Guyや、当時日本でも【ボビ男】なる言葉が生まれる程人気を博したBobby Brownなどが有名。とりあえずBell Biv DeVoe『Poison』あたり聞いていただけると伝わりやすいかと。 www.youtube.com

*7:デビューミニアルバム『The Dream Chapter:STAR』の1曲目に収録されている楽曲。トラック、衣装、リリックビデオなど全体的に90's感漂いまくり。 www.youtube.com

*8:キッズ~ティーン(主にボーイズグループ)が歌うキャッチ―でポップなSoul Music。Jackson5あたりが代表格ですが、ここで言う【あの頃の】というのは初期のNew EditionやSoul For Real的なイメージ。

*9:ちなみにヒュニンカイ、ピアノ以外の楽器も色々できるらしいです www.youtube.com